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神戸地方裁判所 昭和60年(ワ)1906号 判決

原告(反訴被告)

楠公タクシー株式会社

右代表者代表取締役

南和雄

右訴訟代理人弁護士

安藤猪平次

右訴訟復代理人弁護士

内橋一郎

原告訴訟代理人弁護士

長谷川京子

被告(反訴原告)

吉本昌功

右訴訟代理人弁護士

宮永堯史

主文

一  被告(反訴原告)の原告(反訴被告)に対する別紙事故目録記戴の交通事故に基づく損害賠償債権は、金一五四万六七四〇円を超えては存在しないことを確認する。

二  反訴被告(原告)は反訴原告(被告)に対し、金一五四万六七四〇円とこれに対する昭和六二年八月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)及び反訴原告(被告)のその余の請求をそれぞれ棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じ五分し、その一を原告(反訴被告)の、その四を被告(反訴原告)の各負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

Ⅰ  本訴事件について

一  原告(請求の趣旨)

被告の原告に対する別紙事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債権は存在しないことを確認する。

二  被告(請求の趣旨に対する答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

Ⅱ  反訴事件について

一  反訴原告(反訴請求の趣旨)

1 反訴被告は反訴原告に対し、金一一〇二万三三九〇円とこれに対する昭和六二年八月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は反訴被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  反訴被告(反訴請求の趣旨に対する答弁)

1 反訴原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二  当事者の主張

Ⅰ  本訴事件について

一  原告(請求原因)

1 別紙事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生し、同事故により被告所有の被害車両左側面部に凹損傷が生じた。

2 加害車両の運転者富名腰勝は原告の従業員であり、本件事故は、原告の業務に従事中の右富名腰勝が右方の安全確認義務を怠った過失により発生した事故であるから、原告は被告に対し、民法七一五条に基づきその損害を賠償する責任がある。

3 被告の本件事故による損害は多くとも金二五〇万円を超えないものである。

4 原告は被告に対し、昭和六〇年一二月一三日本件事故による損害金として金二五〇万円を支払った。

5 被告は本件事故による損害額が右二五〇万円を超える旨主張して原告の主張を争っている。

よって、原告は被告に対し、請求の趣旨記載のとおりの債務不存在確認を求める。

二  被告(請求原因に対する認否)

請求原因1、2、4、5の各事実は認めるが、同3は否認する。

三  被告(抗弁)

1 別紙事故目録記載のとおり、本件事故が発生した。

2 本件事故は、原告の従業員である富名腰勝がその業務に従事中、別紙事故目録五記載の過失により発生した事故であるから、原告は、民法七一五条に基づき、本件事故による損害を賠償する責任がある。

3 損害

(一) 被告車両修理費

金五一八万二八四〇円

被害車両は、一九七五年(昭和五〇年)式シボレー社製オープン形式のコルベット・ステイングレーであって、グラスファイバー製のものであるため、破損部分のみを取替修理する場合は、特殊な熔接技術が必要でその修理費用は多額となる。そこで、被告はやむを得ず破損を受けた部分を含む車体前部全体の取替修理を行った。

なお、シボレーとはアメリカの自動車メーカーの社名であるところ、我国には輸入のための代理店はなく、従って市場価格は存在しないが、一九七五年式シボレー・コルベット・ステイングレー(非オープン形式のもの)の取扱店における価格は金二五〇万円程度である。そして、被害車両と同年型同型オープン形式車両は我国には一〇台に満たない程度しか存在しないため、少なくとも金四〇〇万円程度の価格がつけられている。さらに、被害車両には各種の装備が付加されていたから、その事故前の価格は金五〇〇万円を超えていた。

(二) 代車使用料

金七三〇万三八一〇円

内訳

(1) タクシー代 金四万一三一〇円

代車借用前の昭和六〇年一一月一六日から同年一二月七日までのタクシー代金

(2) 代車使用料

金七二六万二五〇〇円

昭和六〇年一二月八日から昭和六二年七月三一日までの五八一日間のうち、二日に一回使用、一日単価二万五〇〇〇円として計算した被害車両と同型あるいは同様の外国車の代車使用料

(三) 評価損 金五〇万円

本件事故当時の被害車両の評価額(交換価額)は、被告が備付けた付属装備(金一〇〇万円を下回らない。)を除いて考えた場合でも、オープン形式の同年型同型車両は日本においては一〇台にみたない数しか存在しないため、金四〇〇万円を下回ることはないところ、本件事故による破損のため、被害車両を修理したとしてもその評価額は金三五〇万円程度にしか回復しないから、右評価落ち価額金五〇万円は本件事故による損害というべきである。

(四) 医療費 金三万六七四〇円

本件事故により、被告及び被害車両の同乗者田口泰司は、身体・骨格等に異常がないか否か検査するため、精密検査を受け、被告は、昭和六〇年一一月二九日、右田口の検査料金一万二九八〇円と被告のそれ金二万三七六〇円の合計金三万六七四〇円を医療機関に対し支払った。

(五) 弁護士費用 金五〇万円

(六) 損益相殺

被告は原告から本件事故による損害金として金二五〇万円の支払を受けた。

4 結論

よって、原告は被告に対し、右損害金合計額金一三五二万三三九〇円から右内払金二五〇万円を差し引いた金一一〇二万三三九〇円とこれに対する履行期後である昭和六二年八月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、原告の本訴請求は理由がない。 四 原告(抗弁に対する認否・反論)

1 抗弁1、2、3(六)の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

2 修理費用について

被告車両の破損は左側面前部のみであるから、本件事故と相当因果関係にある損害は同部分の修理費用にかぎるものというべきである。

3 代車使用料について

被害車両は業務に使用すべき実用車ではなく、趣味の品であって、経済的に代車の必要性はない。  4 評価損について

仮に、被告主張のとおり、被害車両につき、金五一八万円の修理費用をかけて修理しても、修理後の価格が三五〇万円程度にしかならないとすれば、そのような修理の必要性はないものといわなければならない。被告の被害車両に対する趣味ないしは愛情価値が大であるため修理が必要であったのであれば、その修理費用は本件事故と相当因果関係にある損害とはいえない。

5 被害車両は本件事故前にすでに左後部が破損していた。仮に、被告主張のとおり、前部の修理について特殊の熔接技術を要し車体前部全体の取替を要するものであるならば、後部の修理についても車体後部全体の取替を要するはずである。仮に、後部で部分修理が可能ならば前部も可能なはずである。

6 この種の車両の新車価格は約一〇〇〇万円であるところ、被害車両は一〇年を経過した中古車両であり、すでに減価償却を終え、実務上の評価額は微少である。そして、一〇年程度では骨董品としての評価価値もなく、従って、本件事故当時の被害車両の評価額は金二五〇万円をさして上回るものではない。

Ⅱ  反訴事件について

一  反訴原告(反訴請求原因)

本訴事件の抗弁事実(三・1ないし4)記載のとおり。

二  反訴被告(反訴請求原因に対する認否・反論)

本訴事件の抗弁に対する認否・反論(四・1ないし6)記載のとおり。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一本訴事件について

一請求原因1、2、4、5の各事実は当事者間に争いがない。

二抗弁1(本件事故の発生)、同2(原告の責任原因)の事実は当事者間に争いがない。

三そこで、本件事故により被告に生じた損害について検討する。

1  被害車両の修理費用

金三六二万円

(一) 〈証拠〉によれば、次の事実が認められ、〈証拠〉中、右認定に反する供述部分は採用できず、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 被害車両は、被告が、昭和五八年四月に金八〇〇万円で購入した同人所有の一九七五年(昭和五〇年)式デトマソ・パンテーラ(外国車、イタリア製)との交換により、訴外落合文彦から、昭和五九年六月取得した外国車《一九七五年(昭和五〇年)式シボレー社製オープン形式コルベット・ステイングレー。神戸三三つ一六六六号》である。右交換の際、落合及び被告は、被害車両の右交換価格を金六〇〇万円、デトマソ・パンテーラのそれを金七三〇万円として取引し、右差額金一三〇万円を被告は右落合から受領した。

被告は被害車両をレジャー等に使用していた。

(2) 本件事故により、被害車両の左側面前部と加害車両の右前部とが衝突した。加害車両は、訴外宮崎自動車サービスで修理を受けたが、その修理代金は金九万六四九〇円であった。

(3) 被害車両につき、昭和六〇年一二月ころ、被告は訴外カルフォルニア・レーシング(訴外出口勝経営)にその修理を依頼し、ボディの修理は訴外ボディショップ東(訴外東正一こと駒井武経営)が行い、ボディ部品供給及び足まわり修理はカルフォルニア・レーシングが行う旨の約定で修理が行われ、修理部品を海外から特別注文するなどしたため、右修理期間は相当長期に及び、修理は昭和六二年七月末ころ完成した。

(4) 被害車両は、本件事故により、外見上は、左前部ボディ・フェンダーに凹損・ひび、左側輪に歪み等の損傷を受け、被告の依頼により、右ボディショップ東及びカルフォルニア・レーシングにおいて、ほぼ全面的に分解して点検が行われ(右分解点検により確認できた確実な破損箇所は、左前部ボディ・フェンダーのほか、ホイール、サスペンション、フロント足まわり、ヒーター、フロントガラスの下、ラジエター等であった。)、次のとおり、ほぼ車体全部につき調整・修理・全面塗装等が加えられた。

ボディショップ東作成の見積書によると、右修理代金として金五一八万二八四〇円(部品代金二九六万〇八四〇円、工賃二二二万二〇〇〇円)が計上されている。そして、すでに修理は完了しているところ、請求額は具体的には確定していない。

① 脱着・取替部分 見積額

金二二二万二〇〇〇円

うち部品代金一六二万四〇〇〇円

工賃 金五九万八〇〇〇円

フロントバンパー、フロントバンパーエクステーション、フロントエンドパネルグループ、フロントホイールウエール(左右)、フロントサスペション(一部)

② 脱着(調整)部分 見積額

金八一万円

うち部品代金三七万六〇〇〇円

工賃 金四三万四〇〇〇円

ラジエターグリル、フロントスモールランプ(左右)、サイドフラッシャーランプ(左右)、ヘッドランプ(左右)、ヘッドランプリジフトキット(左右)、ラジエター、ダッシュパネルまわり、ハンドル・ブレーキペダルまわり、シート及びマット、ボンネット、左右ドア、エンジン及びミッションまわり、ワイパー及びヒーター類、リヤサスペンション

③ 点検・修正部分 見積額

金五四万円(工賃)

フロントバンパーステー及び取付部、ラジエターカバー、ラジエターコアサポート、フロントフェンダーインナーまわり(左右)、カウルトップパネル及びフロア水漏れ、ボディ取付部、フレームまわり

④ その他の使用部品

金九一万三六四〇円

右フロントホイール、ナックル、ホイールベアリング(2)、ローターディスクキット、アッパアーム、ロアアーム、ピットマンアーム、アイドラアーム、パワーステアリングスタートユニット(2)、パルブ、シリンダ、エンド(4)、ホース(4)、スリーブキット、ナックルアーム

⑤ 全面塗装 金六五万円

⑥ オイル等 金四万七二〇〇円

(5) 本件事故後、カルフォルニア・レーシングにおいて移動中、事故により被害車両はリア・トランク及びリア・フェンダーに損傷を受け、同時にその修理も行われた。

(6) 被害車両は、フルフレーム構造で、シャーシーの上に衝撃を吸収する性質のファイバーの箱が乗っているため、衝撃により損傷を受けやすく、場合によっては、衝突部分とは異なる部分にも損傷が生じる可能性も完全には否定できない構造の車で、通常走行中のバウンド等の衝撃によってさえ損傷・故障の生じる可能性を否定できないごとくであり、その意味では実用性に疑義があり、自動車愛好者が専ら趣味で乗車する車である。

(7) オートガイド自動車価格月報昭和六〇年外車版(レッドブック)のシボレー車の欄には被害車両の価格を知るに参考となる車両の価格の表示はないなど、被害車両と同年型同形式のシボレー・コルベット・ステイングレーの交換市場価格を直接知る資料は存在しない。もっとも外車販売店には、フルオープン式一九八一年製コルベット・ステイングレー・フル装備を金六八〇万円で、オープン形式一九六八年製コルベット・ステイングレーを金三九八万円で売り出している旨の表示のあるものが存在する。

(8) 原告会社の事故係担当者である河野恒広は、被告から修理費として金五四〇万円を請求され、不審に思い、興亜火災海上保検株式会社関連の鑑定人や、安田火災海上保検株式会社関連の鑑定人渡辺某に相談したところ、前者からは、「安く修理しようと思えば一〇〇万円でもできるし、高く修理しようとするときりがない。ほどほどのところ二〇〇万円程度で相手方と話をつけてはどうか」旨、後者からは、「ボディショップ東作成の見積書(乙第一号証)は、その見積書どおりの修理をするにしても高額すぎ、金四〇〇万円程度が相当である。」旨各助言を受けた。そして、本件訴訟提起後、右両鑑定人に鑑定書の作成を依頼したが、いずれもボディショップ東と知り合いであること等を理由に断られた。

(二) 右認定事実を前提に、本件事故による被害車両の修理費用について検討する。

(1)  交通事故により車両が損傷を受けた場合には、通常はその修理費用が損害となるが、修理費用が、当該車両の事故後の時価と事故前の時価との差額を上回る場合には原則として、右時価の差額を限度として損害額を算定するのが相当である。けだし、修理費用は、材料・部品代と工賃の総和として計上されるものであろうから、修理内容いかんによっては、原状回復以上の利益を回復する結果となることがあり、そのような場合は、その修理費用全額を損害として加害者に賠償義務を課するのは損害賠償制度の目的に照らし相当でなく、また、修理費用が事故前後の当該車両の時価の差額を上回るような場合、被害者としては、車両損傷につき、自らの出費で修理しなければならない場合(賠償義務者がいない場合)と同様の合理的な対処をなすべきであるから、右時価の差額の賠償をもって満足すべきであり、それでもなお当該車両の修理を希望する場合には、それがやむを得ない選択として許容される特別の事情のないかぎり、右時価の差額相当額を越える部分については損害賠償を求められないものと解するのが相当である。

(2) ところで、被害車両は、自動車愛好者間で取引される特殊な外国車であって、取引事例に乏しいためその市場価格は明らかでないが、前記(一)認定事実によれば、昭和五〇年製の自動車ではあるが、一般の乗用車とは異なり、中古車であっても需要があれば高価で売買される車両であって、被告主張のとおり、その通常の取引価格は金四〇〇万円を下回るものではないものと認めるのが相当である。しかしながら、本件事故による被害車両の価値の下落がいかほどのものであるかについては証拠上明らかでなく、従って、被害車両の事故前及び事故後の時価並びにその差額もまた明らかでないから、修理費用の上限を画するべき正確な金額は明らかでないが、少なくとも右金四〇〇万円をこえる修理費用は本件事故と相当因果関係のある損害とはならないものと認めるのが相当である。

(3) そこで、被害車両の本件事故と相当因果関係の認められる修理費用について検討する。

本件事故による被害車両の直接の衝突部位・損傷は一部分(左前部ボディ・フェンダー)にとどまったにも拘わらず、被告の要望により、ほぼ全面的な分解・点検修理が行われたこと、しかしながら、被害車両の本件事故による損傷については部分修理も可能であり、被害車両が衝撃に弱い性質の車であることを考慮してもなお、この種の外車を愛好する者にとっては格別、一般的には右修理は、損傷のない部分につき脱着・取替、脱着・調整がなされるなど本件事故による損傷の修理としては大規模かつ念入りすぎるものであったこと、事故後にカルフオルニア・レーシングにおいて移動中に生じた後部の損傷についても並行して修理が行われ、車体後部の塗装など部分的には右修理費用も本件事故による損傷修理の費用として見積もられているものと認められること、工賃の基準等が明らかでなく、被告主張の修理を前提にしてもその修理費用額は割高と言わざるを得ないこと等前記(一)認定事実から認められる諸事情を総合すると、前認定のボディショップ東作成の見積書による修理費用は、本件事故による修理としてはその必要性及び相当性に疑問のある内容と認められる。しかしながら、適正修理費用額について鑑定等の証拠のない本件にあっては、右修理見積額を無視することはできないところ、本件事故による損傷の修理として必要性・相当性のある修理費用額は、控え目に算定しても、右見積書による金額の七割を上回ることはないものと認めるのが相当である。従って、本件事故と相当因果関係のある修理費用は、金三六二万円となる(一万円未満切捨。)。

5182840×0.7≒3620000

2  代車使用料等 金二四万円

前記のとおり、被害者たる被告は、車の損傷につき、賠償義務者がいない場合と同様の合理的対処をなすべきものであるところ、被告の主張によると、被告は、事故後昭和六二年七月末までの問、合計金七二六万余円のタクシー代・代車使用料の出費をし、あるいは債務を負担したというのであるが、右主張自体被害者に求められるべき右誠実義務に反するものと言わざるを得ない。

右損害費目としては、被害車両の修理に必要かつ相当な期間の代車賃借料相当額についてのみ、本件事故と相当因果関係のある損害というべきところ、本件においては、被告は被害車両を愛好し、マニアとして専ら楽しみのため同車両を乗用していたという以外、他に特段の具体的用途があったものとは認められないこと、修理は昭和六二年七月末ころまでの長期に及んだが、右は前認定の本件事故による損傷の修理としては相当因果関係を認めるに足りないほぼ全面的な分解・点検修理を行うなどしたためと推認すべきこと等の事情が窺われるから、外国車の修理のため海外から部品を取り寄せなければならない等の事情を考慮しても、右期間としては六〇日、一日あたりの代車賃借料相当額は金四〇〇〇円と認めるのが相当である。従って、金計金二四万円をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

3  評価損について

被告は、修理後の被害車両の評価額が本件事故前の同車両の時価に及んでおらず、その差額金五〇万円はいわゆる評価落ちとして損害となる旨主張するが、被害車両が前認定のとおり特種な外国車であることを考慮すると実用車とは異なり一般的に評価損が避けられないものと推認することはできず、他に本件全証拠によるも右被告主張の評価損の発生を認めるに足りないから、被告の右主張は理由がない。

4  医療費 金三万六七四〇円

〈証拠〉によれば、本件事故による身体の異常の有無を検査するため、被告及び被害車両の同乗者田口泰司は小原病院において精密検査を受け、その費用として、昭和六〇年一一月二日被告は同病院に対し、被告分として金二万三七六〇円、右田口分として金一万二九八〇円の支払をしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。なお、右田口分の支払について被告が原告に請求しうる根拠について被告の主張は明かでないが、賠償者代位ないしは第三者弁済による代位により被告は右田口の原告に対する損害賠償債権を取得したものと認める。従って、右合計金三万六七四〇円をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

5  損益相殺 金二五〇万円

抗弁3(六)の事実は当事者間に争いがない。そうすると、被告はすでに金二五〇万円の損害のてん補を受けたことになるから、これを右1、2、4の損害額小計金三八九万六四〇円から控除すると、金一三九万六七四〇円となる。

6  弁護士費用

被告が本件訴訟(反訴事件を含む。)を被告(反訴原告)訴訟代理人弁護士に委任していることは本件記録上明らかであり、相当額の着手金・報酬を右代理人に支払うべきことは弁論の全趣旨により認められるところ、本件訴訟の内容、経過、立証の難易、損害額等諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係の認められる損害として原告に請求しうる弁護士費用は、金一五万円をもって相当であると認める。

四本訴事件のまとめ

以上のとおり、被告は原告に対し、金一五四万六七四〇円の損害賠償債権を有しているから、その限度で被告の抗弁は理由がある。従って、原告の本訴請求は右限度で理由がない。

第二反訴事件について

本訴事件理由中に記載のとおり、反訴被告は反訴原告に対し、本件事故による損害金として、金一五四万六七四〇円とこれに対する本件事故発生の日の後である昭和六二年八月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

第三結論

以上の次第で、原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する本訴事件の請求は、被告(反訴原告)の原告(反訴被告)に対する本件交通事故に基づく損害賠償債権は金一五四万六七四〇円を超えては存在しないことの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、反訴原告(被告)の反訴被告(原告)に対する反訴事件の請求は、金一五四万六七四〇円とこれに対する本件事故発生の日の後である昭和六二年八月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の反訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官杉森研二)

別紙事故目録

一 発生日時  昭和六〇年一一月一五日午後九時一五分ころ

二 発生場所  神戸市中央区加納町四丁目四番一七号先路上

三 加害車両  普通乗用自動車(神戸五五う九四六〇。以下「加害車両」という)

右運転者 富名腰勝

四 被害車両  普通乗用自動車(神戸三三つ一八六六。以下「被害車両」という。)

右運転者 被告(反訴原告)

五 事故態様  被告車両が本件事故現場付近道路を北進中、一旦停止したところ、被告車両の左側車線後方を進行していた加害車両が、右前方の安全を確認することなく突然進路を変更して被害車両の進行車線に進入してきたため、被害車両の左側面前部に加害車両の右前部が衝突したもの。

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